甲状腺機能低下症・橋本病
甲状腺機能低下症・橋本病

「いくら寝ても疲れがとれない」「食事の量は減っているのに、なぜか体重が増えていく」「周りの人は寒がっていないのに、自分だけ異常に寒く感じる」 このような長引く体の不調に悩まされていませんか?
気分が落ち込んだり、物忘れがひどくなったりすることもあるため、「年齢のせいだろう」「更年期障害かもしれない」「うつ病になってしまったのかも」とご自身で判断し、精神科など他の診療科を受診されて長年原因が分からずにいる患者さんが少なくありません。 しかし、こうした全身の働きの低下は、「甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)」、中でも代表的な「橋本病(慢性甲状腺炎)」という病気が引き起こしているケースが頻繁に見られます。
今回は、内分泌疾患を専門とする医師の視点から、橋本病が体の中でどのような状態を引き起こしているのか、その医学的なメカニズムと、心身の健康を取り戻すための治療法について詳しく解説いたします。
喉仏(のどぼとけ)のすぐ下に位置する「甲状腺」は、私たちの生命活動を維持するための「甲状腺ホルモン」を血液中に分泌している大切な臓器です。
甲状腺ホルモンは、全身の細胞の新陳代謝を促し、体温を保ち、脳や内臓の働きを活発にする、いわば体を動かすための「エンジンのアクセル」のような役割を担っています。
「甲状腺機能低下症」とは、何らかの理由でこの甲状腺ホルモンが十分に作られなくなり、血液中のホルモン量が不足してしまう状態の総称です。 アクセルがうまく踏み込めなくなるため、全身の細胞の働きが「スローダウン」してしまいます。その結果、エネルギーがうまく作られなくなり、新陳代謝が滞ることで、様々な身体的・精神的な不調が現れるようになります。
甲状腺機能低下症を引き起こす最も代表的な病態が「橋本病」です。成人女性の10人に1人〜数人がこの病気の素質を持っていると言われるほど頻度が高く、特に30代〜50代の女性に多く見られます(日本人医師の橋本策(はかる)博士によって世界で初めて報告されたため、この名がついています)。
橋本病の発症メカニズムは、バセドウ病と同じく「自己免疫の異常」にあると考えられています。 本来、外敵から体を守るはずの免疫システムが、誤って自分自身の甲状腺を標的としてしまい、「自己抗体(Tg抗体やTPO抗体など)」を作り出します。この免疫の働きによって、甲状腺に慢性的な「炎症」が起こります。
炎症が起きているだけ(ホルモン量は正常)の段階では、特に症状は現れません。しかし、何年、何十年とゆっくり炎症が続くうちに、甲状腺の細胞が少しずつ壊れていき、やがて十分な量の甲状腺ホルモンを作り出すことができなくなります。この状態に至って初めて「甲状腺機能低下症」としての症状が現れるのです。
全身の新陳代謝が低下するため、頭の先から足の先まで、非常に幅広い症状が現れるのが特徴です。
1.極端な疲労感と寒がり
エネルギーが生み出されにくくなるため、常に体がだるく、眠気を感じます。また、体温を維持する力が落ちるため、夏でも厚着をしたくなるほどの強い寒気を感じることがあります。
2.体重増加とむくみ(浮腫)
基礎代謝が落ちるため、食事の量が少なくても体重が増えやすくなります。また、顔や手足が腫れぼったくむくみます。橋本病のむくみは「粘液水腫(ねんえきすいしゅ)」と呼ばれ、指で押してもへこまない(跡が残らない)という医学的な特徴があります。
3.皮膚と毛髪の乾燥
汗や皮脂の分泌が減るため、皮膚がカサカサに乾燥します。髪の毛もパサつき、抜け毛が増えたり、眉毛の外側が薄くなったりすることがあります。
精神的な不調(うつ状態)
脳の働きがスローダウンするため、気力がわかない、無気力になる、記憶力が落ちるといった症状が現れ、認知症やうつ病と間違われることがあります。
脈が遅くなる(徐脈)
心臓の働きがゆっくりになり、脈拍が減ります。
便秘
胃腸の動きが鈍くなるため、頑固な便秘に悩まされることが多くなります。
声のかすれ・首の腫れ
声帯がむくんで声が低くかすれたり、甲状腺全体が硬く腫れたりすることがあります。
甲状腺ホルモンの不足は、全身の代謝異常を引き起こすため、生活習慣病の数値にも大きな影響を与えます。
特に注意が必要なのが「脂質異常症(悪玉コレステロールの上昇)」です。甲状腺ホルモンには、血液中の悪玉(LDL)コレステロールを肝臓で処理するのを助ける働きがあります。そのため、橋本病によってホルモンが不足すると、食事に気をつけていてもコレステロール値が急激に高くなってしまいます。「健康診断で急にコレステロールが引っかかった」という背景に、橋本病が隠れていることもあります。
また、糖尿病の治療中の方にとっても、ホルモンの変化は血糖コントロールを不安定にする要因となります。代謝の低下によって体重が増加しやすくなることで、間接的にインスリンの効き目が悪くなる(インスリン抵抗性が増す)こともあります。このように、内分泌と代謝の病気は深くつながっているため、総合的な視点での診療が重要になります。
「もしかして橋本病かもしれない」と思われた場合は、内分泌を専門とする医師による血液検査を受けることで、正確な状態を把握することができます。
血液検査では、甲状腺ホルモン(FT3、FT4)が低下し、それを補おうとして脳からの指令ホルモン(TSH)が高くなっているかを確認します。さらに、原因となる自己抗体(Tg抗体、TPO抗体)の有無を調べます。必要に応じて、超音波(エコー)検査で甲状腺の大きさや内部の炎症の状態を確認します。
治療法は、非常にシンプルで体への負担が少ないのが特徴です。 甲状腺そのものの炎症を治すお薬はありませんが、足りなくなっている甲状腺ホルモンを「お薬(甲状腺ホルモン薬)」として1日1回内服し、外から補ってあげるという治療を行います。
このお薬は、もともと体の中にあるホルモンと同じ成分で作られているため、医師の指示通りに適切な量を飲んでいれば、副作用の心配はほとんどありません。お薬の量が体に合ってくると、それまでの強い疲労感やむくみ、寒がりといった症状は次第に改善し、健康な時と全く変わらない穏やかな日常生活を送ることが期待できます。
「年のせいだ」「自分の怠けだ」とご自身を責めて無理を重ねていると、症状が長引き、日々の生活の質(QOL)が大きく損なわれてしまいます。
山梨県甲府市の「こうふ糖尿病健康クリニック」では、糖尿病だけでなく、橋本病をはじめとする甲状腺・内分泌疾患の専門的な診療を行っております。院内の迅速血液検査により、当日にホルモンの状態を把握し、的確な診断と治療のスタートが可能です。
「疲れやすくて何もやる気が起きない」「コレステロール値が高い原因を知りたい」という方は、一人で悩まずにぜひ一度専門医の診察を受けてみませんか?
原因の分からない不調を医学的な視点から紐解き、患者さんが再びご自分らしい健やかな毎日を過ごせるよう、私たちが丁寧にお手伝いさせていただきます。
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