甲状腺機能亢進症・バセドウ病
甲状腺機能亢進症・バセドウ病

「じっとしているのに心臓がドキドキする」「暑くもないのに異常に汗をかく」「食事の量は変わらないのに、どんどん体重が減っていく」 このような症状が続き、不安を抱えていませんか?
「仕事のストレスが溜まっているのかな」「年齢的に更年期障害かもしれない」とご自身で判断し、無理をして日々の生活を頑張り続けている方は少なくありません。しかし、こうした長引く不調の背景には、「甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)」、中でも代表的な「バセドウ病」という病気が隠れていることがよくあります。
今回は、糖尿病と同じ内分泌疾患を専門とする医師の視点から、バセドウ病が体の中でどのような状態を引き起こしているのか、その医学的なメカニズムと正しい治療法について詳しく解説いたします。
喉仏(のどぼとけ)のすぐ下に位置する、蝶が羽を広げたような形をした小さな臓器が「甲状腺」です。この臓器からは、私たちの生命活動に欠かせない「甲状腺ホルモン」が血液中に分泌されています。
甲状腺ホルモンは、全身の細胞の新陳代謝を活発にし、脳や胃腸の働きを保ち、体温を適切に調節する大切な働きを持っています。いわば、体を動かすための「エンジンのアクセル」のような役割です。
「甲状腺機能亢進症」とは、何らかの理由でこの甲状腺ホルモンが過剰に作られ、血液中に多く出すぎてしまう状態の総称です。 アクセルが常に深く踏み込まれている状態になるため、体は24時間休むことなく「フル稼働」し続ける過酷な状況に置かれます。その結果、激しいエネルギー消費が生じ、様々な身体的・精神的な不調が現れるようになります。
甲状腺機能亢進症を引き起こす最も代表的な病態が「バセドウ病」です。20代〜50代の女性に特に多く見られますが、男性が発症することもあります。
バセドウ病の発症メカニズムは、ウイルス感染などではなく「自己免疫の異常」にあると考えられています。 私たちの体には、本来であれば外から侵入してきた細菌やウイルスなどの外敵を攻撃して体を守る「免疫」というシステムが備わっています。しかし、バセドウ病の患者さんの体の中では、この免疫システムが誤って自分自身の甲状腺を刺激する「自己抗体(TSH受容体抗体など)」というタンパク質を作り出してしまいます。
この自己抗体が、甲状腺の表面にあるスイッチに結びつき、「もっと甲状腺ホルモンを作ってください」と休むことなく命令を出し続けてしまうのです。その結果、甲状腺が腫れて大きくなり、ホルモンが過剰に分泌される状態に陥ります。
バセドウ病には、歴史的に「Merseburg(メルセブルグ)の三徴」と呼ばれる3つの特徴的なサインがあります。
1.甲状腺腫大
(こうじょうせんしゅだい)
首の前面、喉仏の下あたりが全体的に腫れて太くなったように見えます。ご自身で鏡を見た際や、ご家族から指摘されて気づくこともあります。
2.眼球突出
(がんきゅうとっしゅつ)
眼の奥の脂肪や筋肉に炎症が起き、体積が増えることで眼球が前方に押し出され、目が少し前に出たような顔つきになることがあります。(すべての方に現れるわけではありません)
3.頻脈
(ひんみゃく)
安静にしていても脈が1分間に100回を超えるなど、強い動悸や息切れを感じます。
体重減少
新陳代謝が異常に高まるため、食欲が増してたくさん食べているのに、消費カロリーがそれを上回って体重が落ちていきます。
多汗・暑がり
体内で常に熱が生み出されているため、冬でも異常に汗をかいたり、暑く感じたりします。
手指の震え(振戦)
コップを持つ手や、字を書く手が細かく震えます。
精神的な不調
常に交感神経が刺激されているため、気分が高ぶってイライラしやすい、落ち着かない、夜よく眠れないといった症状が現れます。
排便異常・筋力低下
腸の動きが活発になりすぎて軟便や下痢になったり、足の筋力が落ちて階段を上りにくくなったりすることがあります。
これらの症状は、心臓の疾患や更年期障害、自律神経の乱れなどと非常に似ているため、専門的な血液検査を受けないと診断が遅れてしまうことが多いのです。
甲状腺ホルモンが過剰になると、全身の臓器だけでなく、血糖値のコントロールにも重大な影響を及ぼします。
甲状腺機能亢進症の状態では、食事をとった際に胃腸からブドウ糖が吸収されるスピードが通常より早くなります。また、肝臓に蓄えられていた糖(グリコーゲン)が分解され、血液中にどんどん放出されるようになります。さらに、インスリンの効き目を悪くする「インスリン抵抗性」という状態も引き起こされます。 つまり、バセドウ病を発症すると、血糖値が非常に上がりやすい体質へと変化してしまうのです。
糖尿病の治療中の方がバセドウ病を合併すると、それまで安定していたHbA1cや血糖値が急激に悪化することがあります。逆に言えば、甲状腺の治療を適切に行いホルモン値を落ち着かせることで、血糖コントロールが劇的に改善することもよくあります。内分泌疾患は互いに深く影響し合っているため、総合的な専門医の視点による管理が不可欠です。
「もしかしてバセドウ病かもしれない」と思われた場合は、内分泌を専門とする医師による血液検査を受けることが解決への第一歩です。 血液中の甲状腺ホルモン(FT3、FT4)が高くなり、脳からの指令ホルモン(TSH)が低くなっていることを確認します。さらに、原因となる自己抗体(TRAbやTSAb)の数値を測ることで、バセドウ病の確定診断が可能です。必要に応じて、超音波(エコー)検査で甲状腺の大きさや血流の増加状態を確認します。
バセドウ病の治療には、患者さんの状態やご希望に合わせて、大きく分けて3つの選択肢があります。
1.お薬による治療
(抗甲状腺薬)
日本における治療で最も一般的に選択される方法です。甲状腺ホルモンが作られるのを抑える飲み薬(メルカゾールやチウラジールなど)を毎日規則正しく内服します。お薬が効いてくれば、数週間から数ヶ月で動悸や疲労感は嘘のように落ち着いていきます。ただし、ホルモン値が正常になっても、自己抗体が落ち着くまで長期間(数年間)はお薬を飲み続ける根気が必要です。
2.アイソトープ
(放射性ヨウ素)治療
放射線を出す特殊なカプセルを飲み、甲状腺の細胞を内側から少し減らすことで、ホルモンを作る力を適度に落とす治療です。
3.手術療法
腫れ上がった甲状腺の一部、または全部を手術で摘出します。甲状腺の腫れが非常に大きい場合や、お薬の副作用でお薬が続けられない場合などに選択されます。
当クリニックでは、患者さんのご年齢、ライフスタイル、妊娠・出産の予定などを総合的に考慮し、最も適した治療法をご提案しサポートいたします(アイソトープや手術が必要と判断される場合は、連携する高度医療機関へスムーズにご紹介いたします)。
バセドウ病による甲状腺ホルモンの過剰な状態をそのままにしておくと、心臓に過度な負担がかかり続け、不整脈(心房細動など)や心不全を招く要因となります。また、極度のストレスや感染症などをきっかけに急激に状態が悪化する「甲状腺クリーゼ」という重篤な状態を防ぐためにも、早期発見と適切な治療の継続が何より大切です。
山梨県甲府市の「こうふ糖尿病健康クリニック」では、糖尿病だけでなく、甲状腺をはじめとする内分泌疾患の専門的な診療を行っております。院内の迅速血液検査により、当日にホルモンの状態を把握し、的確な診断と早期の治療スタートが可能です。
「もしかして更年期ではないのかも…」「長引く動悸や体重減少が心配」という方は、一人で悩まずにぜひ一度専門医の診察を受けてみませんか?
原因の分からない不調を紐解き、患者さんが穏やかで健やかな日常を取り戻すためのお手伝いを、私たちが全力でさせていただきます。
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